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MRIにおけるk-space領域および空間領域におけるフィルタの効果

 MRIの撮像において、k-spaceにおけるフィルタ処理(いわゆるRawDataフィルタ)と空間領域におけるフィルタ処理(いわゆるImageフィルタ)があります。その効果を、臨床像の視覚評価で行なおうとしても、被写体の個体差や観察者の主観の影響から、一定した結果は得られないように思われます。
 フィルタの特性の客観的評価の試みとして、MRI画像の2次元空間周波数スペクトル分布とウィナースペクトルを測定してみました。

方 法


【 使用機器 】

1.MRI装置   : Avant(1.5T,SIEMENS)
2.撮像対象  : 装置付属の球ファントム
3.コイル    : ヘッドマトリックスコイル
 


【 主なシーケンス・パラメータ 】

T1WIのスピンエコー法を用いました。主なパラメータは以下のとおりです。



【 2次元空間周波数スペクトル 】

1.装置付属の球ファントムの横断像を撮影
2.画像中央の均一な領域にROIを設定
3.その領域のピクセル値分布の2次元空間周波数スペクトル(絶対値)を求めた

・ 例として、球ファントムの画像(左)とその2次元周波数スペクトルを求め、輝度データとして画像化したもの(右)を示します。

  
       画像とROI               2次元周波数スペクトル
                           ( 輝度=スペクトル値 )

 * 2次元周波数スペクトルを求め、その分布を輝度としての画像化は、自作ソフトを用いました。(そのソフトについて)


【 ウイナースペクトル 】

1.装置付属の球ファントムの横断像を撮影
2.画像中央の均一な領域にROIを設定
2.ROI内を多数のセグメントに分割
3.セグメントのそれぞれについてフーリエ変換、パワースペクトルを求める
4.パワースペクトルを面積で規格化、ウィナースペクトルとする
5.全ウィナースペクトルの加算平均し、求めるウィナースペクトルとした

*一連の計算を、自作ソフトにて行いました。統一した条件で容易に計算可能です。
(そのソフトについて)


【 MTF 】

・ T1WIのSE像のノイズはホワイトノイズとみなせます。Avantは、オリジナル画像とフィルタ画像が同時に取得できるので、それぞれの絶対値スペクトルを求め、その比をMTFとしました。

 

 

K-Spaceにおけるフィルタ特性


・Avantには、k-spaceにおけるフィルタ として、RawDataフィルタと Ellipseフィルタの2種があります。
・RawDataフィルタには、その特性を変化させるパラメータがあり、デフォルトでWeek、Medium、Strongの3段階です。


フィルタを使用しない時の2次元空間周波数絶対値スペクトル : 

スペクトル分布の外周まで、連続した広がりとなりました。

AcquisitionMatrix;256,NumberOfPhaseEncodingSteps;256,PercentPhaseFieldOfView;100

 


RawDataフィルタを使用した時の2次元空間周波数絶対値スペクトル  :

RawDataフィルタを用いると、外周の輝度が低下し、その幅は、Week,Mediam,Strongの順で広がりました。
ほぼ矩形のスペクトル分布となりました。

AcquisitionMatrix;256,NumberOfPhaseEncodingSteps;256,PercentPhaseFieldOfView;100

3者とも、Window条件を固定して表示してあります。


          Week                  Medium                 Strong


Ellipseフィルタを使用した時の2次元空間周波数絶対値スペクトル :

Ellipseフィルタを使用すると、原点を中心とし、等方性に外周の輝度が低下しました。
ほぼ円形のスペクトル分布となりました。

AcquisitionMatrix;256,NumberOfPhaseEncodingSteps;256,PercentPhaseFieldOfView;100


RawDataフィルタの設定を変えたときのウィナースペクトル :

Originalに比し、Week、Medeum、Strongの順に、ウィナースペクトルの高周波域が低下しました。

Originalのウィナースペクトルカーブ形状には周波数依存性が無く、ホワイトノイズとみなせます。

AcquisitionMatrix;256,NumberOfPhaseEncodingSteps;256,PercentPhaseFieldOfView;100

Ellipseフィルタの設定を変えた場合のウィナースペクトル:

Originalとほぼ一致しました。

AcquisitionMatrix;256,NumberOfPhaseEncodingSteps;256,PercentPhaseFieldOfView;100


”収集マトリックス>位相エンコード数”における2次元空間周波数絶対値スペクトル  :

Ellipseフィルタ使用では、左右方向の端部(高周波端)で減衰がみられましたが、上下方向はOriginalとほぼ等しくなりました。
RawDataフィルタ使用時では、左右、上下とも減衰する領域がみられました。

左右方向に長い矩形の輝度分布になっていますが、上下方向が位相エンコード方向になっているためです。2次元空間周波数スペクトルは、k-spaceデータに等しくはありませんが、対応する分布とみなせます。

AcquisitionMatrix;512,NumberOfPhaseEncodingSteps;256,PercentPhaseFieldOfView;100

3者とも、Window条件を固定して表示してあります。

                    Original                               Ellipseフィルタ                          RawDataフィルタ



”収集マトリックス>位相エンコード数”における周波数エンコード方向のウィナースペクトル:

OriginalとEllipseフィルタ使用時はほぼ一致し、RawDataフィルタ使用時のみ高周波域が低下しました。

AcquisitionMatrix;512,NumberOfPhaseEncodingSteps;256,PercentPhaseFieldOfView;100



”収集マトリックス>位相エンコード数”における位相エンコード方向のウィナースペクトル

OriginalとEllipseフィルタ使用時はほぼ一致し、RawDataフィルタ使用時のみ低下しました。

AcquisitionMatrix;512,NumberOfPhaseEncodingSteps;256,PercentPhaseFieldOfView;100


・EllipseフィルタとRawDataフィルタは、空間周波数の高域側で効果がみられました。
・Ellipseフィルタは、収集マトリックスと位相エンコード数の差が小さい場合には有効ですが、収集マトリックスと位相エンコード数の差が大きいほど効果が低くなるようです。
・RawDataフィルタは、収集マトリックスと位相エンコード数によらず、効果が見込まれますが、あたりまえですが、同時に信号成分も減衰するので、パラメータの調整が必要でしょう。

空間領域におけるフィルタ特性


・Avantには、空間領域におけるフィルタ として、Imageフィルタがあります。
・ ImageフィルタのIntensityは、Sharp、Mediam、Smoothの3段階で、それぞれについてEgeEnhancementを1〜5の5段階、Smoothingを1〜5の5段階に設定できます。
・以下、Imageフィルタを表すには、Intensity名-EgeEnhancement#-Smoothing#とします。


Imageフィルタを使用した時の2次元空間周波数絶対値スペクトル :

lImageフィルタを使用すると、ほぼ全周波数領域の輝度が変化しました。
Sharp-3-3,Mediam-3-3,Smooth-3-3の順に低下しました。

3者とも、Window条件を固定して表示してあります。

       Smooth-3-3                Mediam-3-3                            Sharp-3-3



ImageフィルタのIntensityを変化させたときのウィナースペクトル :

Sharp、Mediam、Smoothの順で低下しました。SharpとMediam間の差が大きく、MediamとSmooth間の差は小さなものでした。



Original画像のノイズをホワイトノイズとみなしました。Avantは、オリジナル画像とフィルタ画像が同時に取得できるので、それぞれの絶対値スペクトルを求め、その比をMTFとしました。

全周波数域でIntensityの違いに応じ、低下しまた。MediamとSmoothは、ほぼ等しくなりました。


Imageフィルタは、空間周波数の広い範囲で効果があり、ノイズ低減に有効ですが、同時に信号成分も減衰することになり、撮影部位、個体差、観察者により評価が分かれることになるでしょう。

以上


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