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MRIにおける non-Cartesian k-space trajectory(BLADE)時の
リング状アーチファクト

 non-Cartesian k-space trajectoryであるBLADEにて撮像すると、リング状のアーチファクトが発生します。均一性評価用ファントムの画像上では、容易に観察できます。
 このアーチファクトについて、検討してみました。


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BLADEにおけるnon-Cartesian k-space trajectoryのシミュレーションをしてみました。

・ 赤色実線の交点:k-spaceの原点 
・ k-spaceマトリックス : 128×128
・ BLADE数 : 5
・ 1BLADE当たりのPhaseEncode数 : 20

上図はk-spaseマトリックス全体、下図は中央部分を拡大したものです。

帯が回転するような trajectory が確認できますが、リング状のアーチファクトを説明するできるようなヒントは得られませんでした。

 

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フーリエ変換を2度繰り返すと、符号が逆転した元の関数になります。

MRI画像をフーリエ変換するということは、k-spaceデータについてフーリエ変換を2度繰り返すことになるので、ほぼk-spaceデータが得られることになります。「ほぼ」としたのは、MRI画像のピクセル値はフーリエ変換後の絶対値なので、k-spaceデータそのものが得られるわけではないからです。

MRI画像の2次元周波数スペクトルを、k-spaceの分布を反映したものとして扱うことにしました。

2次元周波数スペクトルの計算とフィルタ処理は、自作ソフトを使用しました。(そのソフトについて
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従来法である Cartesian k-space trajectory により、ファントムを撮影してみました。
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【 均一性評価用ファントム像 】  

主な撮像条件は次のとおりです。

ScanningSequence SE
MRAcquisitionType 2D
SliceThickness

10

RepetitionTime 4000
EchoTime 90
NumberOfAverages 1
EchoNumber 1
MagneticFieldStrength 1.5
SpacingBetweenSlices 20
NumberOfPhaseEncodingSteps 266
EchoTrainLength 19
PercentSampling 100
PercentPhaseFieldOfView 100

TurboFactorを19としたため、ブラーリングが目立ちますが、リング状のアーチファクトはありませんでした。

オレンジの枠内(128ピクセル×128ピクセル)を切り出し、2次元パワースペクトル(以下2Dパワースペクトル)を求めました。
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@ : 切り出した画像

A : 切り出した画像の2Dパワースペクトル
スペクトル値を輝度として画像化したものです。

このスペクトル分布が、従来法のCartesian k-space trajectoryによるものです。

原点を中心に、11×11のデータについて、等高線グラフを作成しました。



【 従来法の等高線グラフ 】

作成した等高線グラフです。

赤色矢印の尾根のようなカーブは、X軸上のデータです。

黄色矢印の尾根のようなカーブは、Y軸上のデータです。

X軸およびY軸以外のデータは、原点をピークに急峻にノイズレベルに低下していました。

このスペクトル分布が、従来法である Cartesian k-space trajectoryによるものです。

 

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次に、non- Cartesian k-space trajectoryであるBLADEにて、ファントムを撮影してみました。
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【 均一性評価用ファントム像 】

   Base resolution 256   
   BLADE coverage 50% 
   PhaseOversampling 0%

2重のリング状アーチファクトが発生しました。

オレンジの枠内(128ピクセル×128ピクセル)を切り出し、2次元パワースペクトルを求めました。


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B : 切り出した画像

C : 切り出した画像の2Dパワースペクトル
スペクトル値を輝度として画像化したものです。

一つ一つのBLADEが確認できますが、リング状アーチファクトを説明できるようなヒントはなさそうです。

リング状アーチファクトは大きな広がりをもつので、低周波閾に限定されると考え、2Dパワースペクトルの原点を中心とし、11×11のデータについて等高線グラフを作成しました。



【 BLADEの等高線グラフ−A 】


作成した等高線グラフです。

前述した”【 従来法の等高線グラフ 】”と比較してみると、X軸とY軸に挟まれた赤色矢印で示す領域が盛り上がっていました。

リング状アーチファクトは大きな広がりをもつので、この極低周波閾に限定した盛り上がりがリング状アーチファクトを生むことになると考えました。

この盛り上がり部分をローカットフィルタ処理にて、減衰させてみました。

また、この盛り上がり部分の外側をハイカットフィルタ処理にて減衰させてみました。


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【 ローカットフィルタ処理 】

D : ローカットフィルタ処理後の2Dパワースペクトル

原点付近の黒く抜けているのが、フィルタ処理で減衰させた領域です。

EDのフーリエ逆変換後の画像

リング状のアーチファクトが消失しました。


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【 ハイカットフィルタ処理 】

F : ハイカットフィルタ処理後の2Dパワースペクトル

カットオフ周波数はBと同じです。

GFのフーリエ逆変換後の画像

ノイズの無い、リング状のアーチファクトのみの画像となりました。

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次に、BLADEの撮像条件を変えてみました。
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【 均一性評価用ファントム像 】

   Base resolution 256   
   BLADE coverage 50% 
   PhaseOversampling 100%

一つのリング状アーチファクトが発生しました。

オレンジの枠内(128ピクセル×128ピクセル)を切り出し、2次元パワースペクトルを求めました。


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H : 切り出した画像

I : 切り出した画像の2Dパワースペクトル
スペクトル値を輝度として画像化したものです。

BLADE coverageが等しくても、Phase over
samplingを上げると、BLADE数が増え、1BLADE当たりのPhaseEnkode数は減るようです。こうすることで、BLADE coverageを等しくし、サンプリング密度を上げているようです。

リング状アーチファクトは大きな広がりをもつので、低周波閾に限定されると考え、2Dパワースペクトルの原点付近について等高線グラフを作成しました。
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【 BLADEの等高線グラフ−B 】

作成した等高線グラフです。

前述した”【 従来法の等高線グラフ 】”と比較してみると、X軸とY軸に挟まれた赤色矢印で示す領域が膨らんでいました。

リング状アーチファクトは大きな広がりをもつので、この極低周波閾に限定した膨らみがリング状アーチファクトを生むことになると考えました。

この膨らみ部分をローカットフィルタ処理にて、減衰させてみました。

また、この膨らみ部分の外側をハイカットフィルタ処理にて減衰させてみました。


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【 ローカットフィルタ処理 】

J : ローカットフィルタ処理後の2Dパワースペクトル
原点付近の黒く抜けているのが、フィルタ処理で減衰した領域です。

K Jのフーリエ逆変換後の画像
リング状のアーチファクトが消失しました。
  


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【 ハイカットフィルタ処理 】

L : ハイカットフィルタ処理後の2Dパワースペクトル
カットオフ周波数はJの時と同じです。

MLのフーリエ逆変換後の画像
ノイズの無い、リング状のアーチファクトのみの画像となりました。

 

 

 

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以上より、non- Cartesian k-space trajectoryであるBLADEによる撮影像のリング状アーチファクトは、k-spaceの原点付近のデータの歪みによるものでした。
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冒頭で、BLADEにおけるnon-Cartesian k-space trajectoryのシミュレーションを示しましたが、今度は、k-spaceマトリックス上にBLADEの順番の数値を、エコー信号取得位置に書き込んでみました。

赤色の実線の交点はk-spaceの原点を、マス目はk-spaceデータマトリックスの一つ一つの要素を表します。

”0〜4”はBLADEの番号です。

”0”は、BLADEといっても、Cartesian k-space trajectoryとなるので、マトリックス要素の中央に位置しました。

”1〜4”は、回転したBLADEとなり、多くはマトリックス要素の中央から外れて位置しました。ただし、原点から離れるに従って、マトリックス要素の中央付近に位置するものが増えるようです。
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中央部のみ拡大してみました。個々のデータは同心円状に位置していました。

マトリックス要素個々についてみると、同一要素内で、’0’以外のデータの位置は、原点に近い位置にあったり、遠い位置にあったりと違いがみられました。

隣り合うマトリックス要素を比較すると、わかりやすいようです。
 

 

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non-Cartesian k-space trajectoryであるBLADEにおいて、k-spaceマトリックス原点付近では、エコー信号の取得位置が、マトリックス要素の中心から、殆どが外れており、マトリックス要素毎にその変位の傾向にも違いがみられました。

そのため、non-Cartesian k-space trajectoryのデータを補間し、Cartesian k-space trajectoryのデータとして置き換えるといっても、マトリックス要素毎に精度に差が生じるものと思われます。

k-spaceマトリックス原点付近において、k-spaceマトリクスのX軸とY軸に挟まれた要素では、同一要素内でのエコー信号取得位置が原点に近い方へ変移しており、プラスの誤差を生み、リング状のアーチファクトが生じることになるものと思われます。
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以上


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