はじめに

 CTDI(Computed tomography dose index)とは、もともとCTの性能評価用の線量指標でしたが、CTの被ばく線量の指標としても用いられるようになり、定義の異なるCTDIが提唱されています。
  
● CTDI (computed tomography dose index)
  ● CTDIw (weighted CTDI)
  ● CTDIvol = CTDIw/Pitch (helical)
  ● MSAD (multiple scan average dose)
  ● DLP (dose length product) 
  など。
 実際のCTDI測定は、下の写真に示すような専用のファントムと専用のペンシルチェンバ型の線量計を用いて測定します。CT装置を設置していても、このような線量計を有している施設は少ないようです。 
 CTDIに関する文献は多くあり、測定そのものも容易ですが、CTDIの概念は分かりづらい面があります。ファントム中の線量分布として線量プロファイルカーブがイメージ図として文献上に登場しますが、イメージであって、精度よく実測されたものがほとんど無いというのも一因と思われます。
 RTI Electronics AB社の”Piranha”を使用すると、ファントム中の線量プロファイルカーブを容易に測定できるということなので、その使用経験をレポートします。

CTDI測定の実際

 @ 専用ファントム
 A 電離箱式ペンシルチェンバ 
 B 測定器本体

方 法

@ 測定に先立って、”Piranha”のコントロールソフトである”CT Dose Profiler”をWindowsPCにインストールします。
ACTDI測定用ファントムの長軸がCTガントリー中心を通るよう配置します。ファントムは他社製品でもかまいません。
B半導体ペンシルチェンバをファントムに挿入します。
Cペンシルチェンバと”Piranha”本体とをケーブルで接続します。
D”Piranha”の電源を入れます。
EPCの”CT Dose Profiler”を起動します。”Piranha”とPCはBluetoothで接続されます。
Fヘリカルスキャンモードとし、ヘリカルピッチ1.0、スキャン範囲はファントム全長とします。管電圧、管電流、ローテーションタイムは任意。
G”CT Dose Profiler”のスタートボタンアイコンをクリックし、直後にスキャンを開始します。
➈スキャン終了後、線量プロファイルカーブが表示されます。なんともあっけなく終了してしまいます。

 通常のCTDI測定ではコンベンショナルスキャンでファントム中央を1スキャンしますが、”Piranha”ではヘリカルスキャンでファントム全長をスキャンします。

 右の図は、今回使用した半導体ペンシルチェンバです。赤矢印部分に大きさ250µmの半導体センサが1個封入されています。

CT Dose Profiler

 線量計のコントロールソフト”CT Dose Profiler”の画面です。線量プロファイルカーブを含む測定結果を1画面で表示できるようになっています。但し、グラフ表示できる線量プロファイルカーブは、1本のみで、グラフ上で2本、3本といった比較ができません。ただし、線量プロファイルカーブデータを含む測定結果と測定パラメータをXML形式でエクスポートしてくれるので、表計算ソフトでもグラフ化できます。
 グラフの縦軸の単位は、線量率〔 mGy/s 〕で表されています。データ解析する場合、頭に入れておいたてください。

 このソフトはLabViewという計測や制御向けのソフトで作成されていました。LabViewは汎用のプログラミング言語ではなく、テキストでの記述はほとんどありません。マウス操作で、いろいろな機能のコントロールアイコンを貼り付け、ラインで結んで関連付け、即実行という具合です。20年以上前、MS-DOSが現役の頃、LabViewをMac上で使用する機会がありました。”BASIC”と”C”の経験しかなかったので、異次元のソフトと思っていました。

測定例−1

 《 ファントムを天板上に置くと 》
・ CT装置:Emotion16
・ 130kV、100mA、
・ ローテーションタイム:1.0sec

Head_0.6:
 スライスコリメーション;0.6mm×16

Head_1.2:
 スライスコリメーション;1.2mm×16

 最初の測定で驚いたのは、線量プロファイルカーブの歪みです。故障かなと思いました。
 原因は、天板でのX線吸収の影響です。このためファントムを天板の外に固定するという難題がでてきました。

ファントムの固定

《 ファントムを天板の外に固定するには 》
 天板の上にファントムを置かず、ヘリカルスキャンとなると、ファントムを天板の外へ出し、天板と共に移動させなければなりません。
 
 そこで、考えたのが、
@ファントムをビニール袋に入れる。
Aビニール袋の口を紐で結ぶ。
B天板端にファントムをひっかけるようにする。
Cファントム長軸が水平になるよう紐の張りを調整し、天板に固定する。今回は鉛ブロックに紐を巻きつけ、ブロックを移動させることで、紐の張りを調整しました。

右の写真を参照してください。ファントムが天板の外に固定されています。

測定例−2

《 ファントムを天板の外に置くと 》
・ CT装置:Emotion16
・ 130kV、100mA
・ ローテーションタイム:1.0sec

Head_0.6:
 スライスコリメーション;0.6mm×16

Head_1.2:
 スライスコリメーション;1.2mm×16

 線量プロファイルカーブの歪みは無くなりました。
 時間分解能は0.5msecであり、検出器の空間分解能が良好なのも確認できます。以前、フィルムを水ファントムに入れて線量プロファイルカーブを測定したことがありましたが、同様の形状です。

 線量プロファイルカーブの裾の広さは約200mmあります。CTDI100用のペンシルチェンバは長さが100mmなので、線量プロファイルカーブを積分した値より低めになることになります。

 同一X線条件で、スライスコリメーションを厚くすれば、ノイズの少ない画像となりますが、ファントム中の線量はかなり高くなるようです。患者被ばくを考慮して、慎重な対応を!

測定例−3

《 ローテーションタイムの違い 》
・ CT装置:Emotion16
・ 130kV
・ スライスコリメーション:0.6mm×16

Body_0.6:
 ローテーションタイム;1.0sec
 100mA
 CTDI100 = 23.0 〔mGy〕

Body_0.6F:
 ローテーションタイム;0.6sec
 167mA
 CTDI100 = 21.7 〔mGy〕

 Emotion16は、ローテーションタイムを変更すると、管電流も応じた変化をするようです。これに気づかずに測定してしまいました。カーブの形状には差がありますが、CTDIはほぼ等しくなりました。ヒントは”まとめると”で。

測定例−4

《 機種の違い 》
・ 130kV、100mA
・ローテーションタイム:1.0sec

Emotion16:
 CT装置;SIEMENS Emotion16
 スライスコリメーション;9.6mm    
                                (0.6mm×16)LemageSXE:
 CT装置;GE LemageSXE
 スライスコリメーション;10mm×1

 LemageSXEはシングルスライスCTでスライス厚10mm、Emotion16はスライス厚9.6mmです。線量プロファイルカーブのピーク幅は、LemageSXEの方が狭くなりました。どうしても、マルチスライスCTは、X線コリメーションが広めになってしまうようです。
 LemageSXEのカーブに若干の歪がありますが、アクリル製ヘッドホルダを使用したためです。

 

まとめると

”Piranha”を使用したところ、
@ 今まで、複数のTLDを一直線に並べ測定していた線量プロファイルカーブを、容易に、短時間で、精度良く求めることができました。
A 測定結果は、XML形式で取得できるので、応用がききます。
B 結果のグラフ表示の縦軸は線量率です。(測定例−3では、2つのプロファイルカーブの形状が異なるのに、CTDIが等しくなりました。ADコンバータのサンプリング周波数が等しいことをkeyとして考えてください。)
C 常に、チェンバーコネクターの反対側からスキャンを開始していましたが、プロファイルカーブのピーク形状の歪みの傾向が一定しませんでした。測定に入る前に、対象となるCT装置のX線出力について、Angular dependenceおよびRotation symmetryを確認しておくべきだと思われます。

* CTの機種によっては、コンベンショナルスキャン時に体動補正と称して360度以上のスキャンをする場合があります。この場合は、従来の電離箱式ペンシルチェンバ方式測定器とは差が生じるものと思われます。

ひとり言 :
「外国では、このような測定器が市販され、QCに役立てられているようです。日本でのCT装置の普及は、世界一です。”Piranha”のような測定器は外国からしか現れません。国内では、ニーズが少ないのでしょうか?患者被ばくと装置のQCへの関心はどうなのでしょう?」